高めあう活動

共同プロジェクト「おひとりさま×イキキル×がん罹患」

財団はNPO法人キャンサーリボンズ(以下・キャンサーリボンズ)と共同で「おひとりさま×イキキル×がん罹患」をテーマに日本が現在抱えている社会的な課題に取り組みます。

近年、日本では孤独・孤立はもはや見過ごせない問題になっています。2005年の経済協力開発機構(OECD)の報告で日本は加盟24カ国の中で最も孤立者が多いという指摘がありました。この現状は現在も変わっていません。

社会的孤立の状況

内閣府が2015年に4カ国の60歳以上の高齢者を対象に実施した『高齢者の生活と意識に関する国際比較調査』でも、「同居の家族以外に頼れる人がいない」という回答の割合が高く、社会的に孤立している人が多いという現状が伺えます。2021年2月に孤独・孤立対策担当大臣が任命され、孤独・孤立対策担当室が設置されたのは、孤独・孤立問題に対する政府の危機意識の表れともいえます。

単独世帯数

当財団が目指すのは、ウェルビーイングに「イキキル」社会の実現です。そのために求められるものを、私たちがとりまく社会の状況をふまえて、多様な視点から探ってきました。そのひとつが“おひとりさま”の「イキキル」でした。

一方、来年で設立15周年を迎えるキャンサーリボンズは、「治療と生活」をつなぐ情報を提供するなど、がん患者さんやそのご家族、ご友人を支援してきました。わが国では、2人に1人が、一生涯にがんに罹患すると言われています。

現代社会は、家族のかたちやライフスタイル、生き方や価値観も多様化し、共同体ではなく個人化の傾向が強くなっています。また、人生百年時代となり、高齢者の独り暮らし、生涯独身のシングルも多くなり、いわゆる“おひとりさま”の存在が増えています。

孤独・孤立という社会的問題には、このような現代社会の変化、“おひとりさま”の増加が深くかかわっているともいえるでしょう。

“おひとりさま”のがん患者さんも、ますます多くなります。既にこの課題への取り組みもはじまっていますが、両団体がタイアップして心地よい生活の実現をめざして取り組んでいきます。

男女の年代別がん罹患数(2019年)

プロジェクトを推進する人たちのコメント

一柳ウェルビーイングライフ財団では「イキキル」ということをテーマにしています。「イキキル」とはどのような人生を描き続けることなのかと私は考えてきました。一方、キャンサーリボンズはがん罹患者の支援に取り組んでいて、そこにも「イキキル」ことの概念が含まれているように思えました。それがこの両者をつなぐ接点になりました。
また、“おひとりさま”も財団の論点のひとつです。

団塊世代の人たちが後期高齢者となりました。独特な世代として生きてきた人たちがこれから一人になったら、どう生きていくのかということにも注視しています。それは、日本は孤立とか孤独に対するサポートが制度として出来ていないと思っていたからです。団塊の世代が後期高齢者の中で圧倒的な人数となったときに、どのようなサポートができるのかは大きな課題です。

がんの場合、孤独・孤立の問題が治療だけでなく、治療中および治療後の生活に不安や悩みをもたらすことも問題となっています。この二つの問題は深く関連していると思われます。QOL(生活の質)を向上させることは治療の継続につながり、新しい治療法に出会えるかもしれないという希望になり、孤独・孤立の解決にもなります。QOLの向上と孤独・孤立の問題解決はつながっているのです。

私は何よりも、がん患者さんも“おひとりさま”も孤立することなく、共に生きていける社会を実現することが大事だと思っています。どんな状況であっても共に生きる、そこにウェルビーイングの本質があるからです。

「おひとりさま×イキキル×がん罹患」という3つのテーマに複合的・総合的に取り組むことで、共に生きる社会を実現できたらという思いがあります。それが、一人ひとりの幸せに寄与することになることを願っています。

岡山慶子氏
(一般財団法人一柳ウェルビーイングライフ代表理事/NPO法人キャンサーリボンズ副理事長)

私がこのプロジェクトに取り組むきっかけは二つありました。そのひとつは個人的な体験です。ともにステージ4と診断された私の肉親とキャンサーリボンズで知り合った女性との違いでした。男女の違いはあれ、どちらも “おひとりさま”で同年代、そしてがんの罹患者でした。でも、違っていたのがリテラシーの高さです。先の女性は医療スタッフを上手に使い分けて、最期まで仕事を続け、講演活動もして、それこそ生ききったという感じでした。まさにイキキル事例を見せていただきました。このふたりのギャップはどこから生まれたのかと常々思っていたのです。

もうひとつは、キャンサーリボンズで患者さん支援をしていくときに、意思決定ということの大切さと難しさを同時に感じてきたということです。近年、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)とか、シェアド・ディシジョン・メイキング(Shared Decision Making)という考え方が医療の現場で広がっています。患者さんが主体的にどうしたいかをベースに、医療者と相談して決めていくというものですが、命の制限があるかもしれないと急に言われ、頭が混乱しているなかで、重大な決断をひとりでするというのはとてもシビアなことです。ひとりで意思決定するというのはたいへんな重圧ではないのかという疑問がありました。

廣瀬瑞穂氏
(NPO法人キャンサーリボンズ委員)

▶︎NPO法人キャンサーリボンズ

 

なお、本サイトでは、がんサバイバーやピアサポーター、精神腫瘍医、在宅医療医、専門看護師など、この共同プロジェクトで実施された調査ヒアリングを紹介する予定です。

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