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老いの逆説─高齢になっても幸福感は低くならない

年齢を重ねると、身体の衰えや、大切なものや人との別れという喪失体験も増えてくる。当然、幸福感は若い世代に比べたら低い、と思うだろう。
しかし、「加齢に伴ってネガティブな状況が増えるにもかかわらず、高齢者の幸福感は低くない」というエイジングパラドックス(Aging Paradox)という現象がある。
このエイジングパラドックスは、生涯発達心理学の視点から、老いのポジティブな面をとらえて提唱されているもので、「老いの逆説」ともいわれている。
つまり、身体機能が低下しているにもかかわらず、生活を楽しんだり、アクティブな高齢者も多いなど、生活面で予想外の順応性を示す現象であり、医学的検査等では見逃されてしまうことが多いそうだ。

 

★なぜエイジングパラドックスは起こるのか

エイジングパラドックスは、加齢に伴った身体機能等の資源の喪失に対する対処法がうまく機能することで生じると考えられ、権藤恭之氏(大阪大学大学院人間科学研究科教授)は、幸福感に影響する要因である自律的な生活を例として、次のように述べている。
「好きな時間にお店に行き、自由に歩き回る歩行能力は、体力の低下でむずかしくなってくる。そんな場合にうまく対処できれば幸福感は下がらない」(要約抜粋)
その対処法のモデルとして、3つあるという。
① 目標を調整する。たとえば、遠いところでなく、近くにしたり、歩行車を使ったり、利用可能な資源を利用する。
② 認知的に対処する。たとえば、他人よりもよいと考えたり、目標をあきらめたり、認知的に自分を納得させる。
③ 幸福感を維持すること自体が高齢者の目標となる、と考える。高齢者は残りの人生が短くなるにつれて死を意識するようになったりして、心理的な安寧を求めようとする気持ちが強くなる。そして、ポジティブな気持ちが高まる情報を好むようになるなど、幸福感を高める動機付けが強くなって、それに基づく行動が増えて幸福感が高くなる。
(「超高齢者の心理的特徴─幸福感に関する知見」(権藤恭之 公益財団法人長寿科学振興財団が運営するウェブサイトにて2016年公開、2019年更新)
https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koureisha-shinri/shinri-chokoureisha.html

 

人生経験ゆえの潜在的な知恵なのか、老いに対する賢い選択をするのかもしれない。エイジングパラドックスの考え方を活かして、自分の認知を変えるなどの対処法によって、高齢者なので仕方がない…とあきらめずに、幸せを味わい、人生を自分らしく生きることができるのだろう。

 

(一柳ウェルビーイングライフ代表理事 一柳弘子)

 

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