それぞれのQoL

バトンタッチ と 役割

 人は、息をすること以外、自分では何もできない状態でこの世に誕生する。
周りの支援を受け、食べ、成長し、自立する。
そして、肉体としての最高のパフォーマンスの時期を経て、ある時から、山登りの帰り道の様に、もと来たところに向かい、下り坂を歩んでいくことになる。
徐々に出来ないことが増えていき、いつか、自分で食べることをしなくなり、自分で息をすることもしなくなり、肉体は活動を停止することになる。
私自身のことであるが、病気やケガなどの経験を経て、今まで見えなかった、見ようとしていなかった、下り坂の人生の道に、パッと明かりが灯ったように思えた。
64回目の夏、つい最近のことである。
“人生の終わり”に向け、体の劣化と向き合い、物事の選択をし直す生き方を受け入れることとなった。“死”についての本も大分読んだ。
改めて、一対の「生」と「死」を繰り返し、生き物の歴史が紡がれていることを認識し、引き渡すこと、遺すことの楽しみをより多く感ずるようになった。
大学一年の冬、父が急逝した。心筋梗塞、脳血栓だった。
その時も人の死について、若者なりに考えた。
『諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽』その時にこの言葉に出会った。
(「諸々のことは常なく変わり続け 生じたものは滅するのがならい 生じ滅するといった移り変わりが終われば こころ静かな楽しみに至る」と理解している)
 それ以来四十数年を経て、この言葉をもう一段実感を持って捉えられるようになった。
生があり、一対の死(滅)がある。その道が明々と見えるようになった時、人は、遺し終わることで、それらから自由になり、楽になると思える。
私にとってQoDとは、バトンタッチし切ることではないかと思っている。
 そしてその最期の時が来るまでは、たとえベットで寝ている生活になろうと、その人らしい生きがいを感ずることができる周囲と関わり(役割)を持ち続けられる地域の人のつながりがあって欲しいと思う。
その変革の推進役をこの法人が担えることを願っている。

(理事 渡邉 敦)

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