学びとるラボ

「ひとりで暮らす人の、よりよい治療と人生のために」で考えたいこと

2022年11月26日・27日、オンラインイベント「がんの治療と暮らしフェア2022」が開催されました。本財団では27日行われた特別プログラム「ひとりで暮らす人の、よりよい治療と人生のために」を共催しました。その後半に、進行役の岡山慶子さんより登壇者の3人に質問がありました。その内容を以下にまとめました。考えさせられることがたくさんあるように思えます。

 [登壇者]

花出正美さん(がん研有明病院がん相談支援センター がん看護専門看護師)
三国浩晃さん(NPO法人人生まるごと支援理事長)
安井久晃さん(神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院 腫瘍内科部長)

(以下敬称略)

1.「もう少し早めに」がなぜできない?

岡山:専門家の方々へ事前に取材しましたが、ひとりでがんの治療をするのは、困難だし無理だという共通した意見が多くありました。治療の最中に意思決定をしていかなければいけないというのはたいへんな課題だと思っています。
もう少し早く糸口が見つけられなかっただろうか、もう少し早く支援者を探せなかっただろうかと「もう少し早めに」という言葉がみなさまから出てきます。まず、そのことについてご意見を伺いたいと思います。

三国:僕のところにくるのは、多くのケースで、ケアマネジャーさん、訪問の看護師さんからの相談です。在宅の現場で困ってどうしようもなくなってから相談がくることが多くあります。
公正証書遺言などはぎりぎり間に合うけれども、亡くなるまでの時間で本人の気がかりなことを全部解決できるとは限りません。連絡があって亡くなるまで一ヶ月くらいしか時間がなかったり、認知症がだいぶ進んでいて法定後見しかできないということもあります。本人が困らないと早めの準備はなかなかできないようです。
きっとケアマネジャーさんがなんとかしてくれるのではないか。訪問看護師さんがキーパーソンの役割を担ってくれるのではないか。死んだ後でも、ほとんど縁もない甥とか姪がなんとかしてくれるはず。そう思うことにして、具体的なことは考えたくないようです。現実逃避もあるのかもしれません。

花出:病気になるって何かのチャンスだったり、あるいは、年金をもらい始めるときもひとつのチャンスだったりすると思います。例えば、病院で「誰かといっしょに説明を聞いてください」とか「書類に家族のサインをお願いします」というとき、これから誰にサポートしてもらうのかを考える、そのキッカケになると思います。
「あれ?どうしよう?」と思ったことをキッカケとして考えながら、一つひとつのプロセスを進んでいくというようなことがすごく大切だと思っています。

2.「支えてくれる人」を探すには?

岡山:こういうセッションを持つことによって、ひとりで暮らしている人たちの何かのヒントになったり、自分の周りに助けてくれる人がいるかもしれないと探してみるキッカケになったりということは、とても大事なことではないかと思いました。

この人がおひとりだとわかったときに、「他にどなたかいらっしゃいますか?」とお尋ねになるようなこともあるかと思います。支えになる人を探し出すために、どんなサポートをしていらっしゃいますか?

花出:「実は、私、ひとり暮らしなんです。支えてくれる人っていません、頼れる人、いません」とおっしゃる方でも紐解いていくと、実はいたということもあります。その方に医師の説明に来てもらうのは難しいのかとお聞きすると、いろいろな事情があって、いまは頼れないというケースがあります。

遠方にいるなら、最近はZoomとかTV会議システムとかを診察室に持ち込む許可を医師に得て、電話で家族が参加するということも増えています。事情によってはそういう対応もできます。

まずはご本人が誰にも頼れないと言っている状況とその思いなどを聞いて、それらを整理することで、少しでもいい環境で治療を受けていただく。そのチャンスを探っていくことが大切だと思います。ご本人の頼りたくないというお気持ちも大切にしながら、折り合いを探って対応させていただくことが多くあります。

安井:いろいろな家族関係があって、聞いていると複雑で、すごいなとびっくりすることも多くあります。最初の時点でまだ人間関係ができてないうちに伺うのは難しいですが、折を見て聞くようにしています。

タイミングとしては、例えばCTの検査をして次の治療方針を決めるときに、誰かいっしょに聞いてくれる人はいませんか?というあたりですね。できるだけ一緒に話を聞いてもらいたい人に同席することをお願いしています。

実のお子さんとはすっかり関係が悪くなって疎遠でも、死ぬ間際になって関係修復したいという方もいらっしゃいました。そういうときに連絡をとって見舞いに来てくれたという例も実際あります。

本当に天涯孤独の人もいらっしゃいますが、どこかに、なんらかの接点があります。そこを辿るというお手伝いすることもあります。場合によって、本人は直接電話しにくいので、私たちから電話を差し上げることもあります。

血縁者でなくても友達でもいいのです。最終的に意思決定はできないにしても、いろいろなサポートとして友人とか知人は大事な存在なのです。そういう方でも同席、本人の同意さえあれば診察に同席いただけます。

三国:キーパーソンになる役割というのは、できれば本人をよく知っていること、そして緊急時になるべく早くに駆けつけられること、そして自分より先に死にそうにない人です。そう考えると、私たちのような任意後見受任者につながってこないのがいいと思います。

私が依頼を受けている“おひとりさま”というのは離婚して子どももいないとか、生涯独身でいるとかいう人が多いのですが、兄弟もいるし、甥も姪もいるし、友人もいるはずです。自分がいままでの人生のなかで関わってきた甥や姪、友人などと再度関係を修復し、話してみるのがいいと思います。それでどうにもならなかったら私たちのようなところに頼むという方法もありますが、それはあまりお勧めしないですね。

3.余命の時間を満足なものにするには?

岡山:がんは死を意識することが多い病気です。治療の過程で重要な意思決定していかなければいけません。そのなかで自分の人生を見つめ直すことが大きな課題になってくると思います。それをひとりで探しながら、一方で意思決定もしていかなければいけないというのはたいへんな負担かと思います.

花出:通常、私たちはいい人生を送りたいと思いつつ、自分がどう生きたいかなどと考える習慣はあまりありません。だからこそ、自分が何を大切にしているのかを立ち止まって考えることが重要だと思います。

その考えるタイミングですが、優先順位があります。いままさに治療を決めなければいけないというときは、冷静には考えられません。そこで、私たちはいまいちばん気になっていること、気がかりなことはなんですかとお訊ねしています。

医療者は最善を祈りつつ最悪に備えるという思考がインプットされているので、「あぁ、この方、一年後、二年後にこういうことになるかもしれない」といろいろなことが思い浮かぶのですが、まずはいまの気がかりなことを見つけます。そしてタイミングを見て先々のことを考えて、どのように生きていきたいのかをいっしょに考えるのがいいと感じることが多いです。

安井:日々悩みながら診療しているのですが、がんの治療で意思決定をサポートしてくれる人がいないというのは難しいことですね。

私たちは患者さんを診た時点で、平均の余命がこれくらいだとわかって診療していますが、患者さんに言葉でお伝えしてもなかなか実感として受け止めてくれません。患者さんとの共有、すり合わせというのは時間をかけてやっていくのですが、限られた時間のなかで何をしていくのか、あるいは何を重要視していくのかは、一人ひとり違いがあります。

仕事の整理をしたい人、お金のこと、家族のことなど優先順位を決めるのが大事です。治療にばかり目が向いていると本当に大事なことをする時間がなくなりますよということも普段から言うようにしています。

高齢者のなかには、自分のことを考える習慣がなかった方がたくさんいますので、後悔しないようにと必ず言うようにしています。必要ならば、残り時間の見通しという話もしています。ある程度の幅を持って言いますが、ほとんどの方はそういうことすら考えていないので「そんなに短いんですか」と驚かれます。

「じゃぁ、やっぱりこういうことをしておかなきゃ」ということで真剣に考え出す人もいらっしゃいます。残り時間をある程度正確にお伝えするということはひじょうに大事なことかなと思います。

三国:ご本人に予後がどれくらいあるかということを知ってもらうことも、気がかりなことを考えるということも、キーパーソンになる人にとっては有り難いことです。

私たちには、出会ってから亡くなるまでたとえ二ヶ月しかなくても、気がかりなことを見つけて、それを何とか解決したいという思いがあります。

例えば本人がずっと墓守をしていたお墓を整理して安心して旅立てるようにするとか、先に逝ったご主人との思い出の地に、あと余命一ヶ月かもしれないけれど行ける段取りをつけるとか。気がかりなことを言ってもらうことによって、それに関わることが結果として私たちのグリーフワークにもなることがあります。そのためには医療従事者の方など誰かに伝えていただくというのは本当に有り難いことだと思います。

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岡山慶子さん NPO法人 キャンサーリボンズ 副理事長

がんになるとキャンサージャーニーという言葉が使われます。旅はやはり道連れがいないと楽しくないし、いい旅ができないと私は思います。そういう意味で、旅のなかに支援をしてくださる方がどれだけいるかということを強く感じています。そういう支援者を見つける術をいろいろなところがみんなで協力しあえるようになれば、素晴らしいなと思いました。

私たちが合い言葉にしようと思っているのは「もっと聞かせて」という言葉です。みんなが聞きあえるような社会をつくることで、がんのおひとりで暮らす方々がもっとお互いに話し合い、聞きあえるようにできればいいと思っています。どうもこのテーマにご関心をいただいたみなさま、ご登壇いただいた方々、ほんとうにありがとうございました。

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